2020 05.14
ICT施工の基礎知識

「ICT施工」は今後どうなる? 国土交通省「ICT導入協議会」資料から解説

ICT施工は、建設業に情報通信技術(Information and Communication Technology)を導入することで、建設プロセスの各工程を高効率・高精度化し、生産性の向上を実現するシステムのことです。

10年ほど前から本格的に民間企業での導入がはじまったこのシステムは今後どうなっていくのでしょうか。ICT施工の普及を推進する国土交通省の資料などから解説します。

ICT施工の現在と今後




国土交通省によると、ICT施工のうち国土交通省の推し進めるICT活用工事の公告を行ったところ、平成30年度の実施率は57%でした。

この実施率は年々増加しており、都道府県・政令市におけるICT活用工事の公告件数は、平成30年度実績で2,428件と前年の2.7倍にもなっています。

また、ICT活用工事の内訳についても、初期は「ICT土工」のみでしたが、「ICT舗装工」「ICT浚渫工」「ICT浚渫工(河川)」などの実施要領なども整備され、徐々に公告の件数も実施の件数も増加しています。

一方で、先ほど紹介した都道府県・政令市におけるICT活用工事については、まだ直轄工事の実施率5割と比較すると、公告に対する実施は2割程度と少なくなっています。

今後は直轄工事のような大規模な案件だけでなく、都道府県・政令市におけるICT活用工事においてもICT施工が普及するか否かが焦点となっていると言えるでしょう。
参照:ICT活用工事の実施状況(H30年度)(国土交通省)(https://www.mlit.go.jp/common/001275855.pdf

作業時間縮減効果が得られない事例もある




また、同じ平成30年度のICT活用工事に対する国土交通省の調査によると、ICT施工の導入によりICT土工においては延べ作業時間を30%縮減する効果がみられました。

しかし、回答者のうち約7%は「効果なし」「効果マイナス」を選択しており、縮減効果が得られなかった事例もあることがわかっています。

「効果なし」「効果マイナス」と回答した作業工程については、3次元設計が「効果なし」が8%、「効果マイナス」が22%、施工が「効果なし」が2%、「効果マイナス」が13.9%と特に高い割合を示しました。

これらについては、同調査への回答として以下のような意見が寄せられています。

「3Dデータ(※3次元設計データ)の作成には、工事契約時に提供された2D設計データのみでは不足するため、変化点すべての横断面の設計データを作ることとなった」

「従来は施工者の裁量範囲であった擦付部分なども3D設計(※3次元設計)の対象としたことによりデータ作成に時間を要した」

「GNSSの受信状況により、作業時間や作業範囲が限定され待ち時間が発生」

「ICT建機の配送待ちが発生」
参照:ICT施工の普及拡大に向けた取組(国土交通省)(http://www.mlit.go.jp/common/001303213.pdf

建設現場へICTを導入するうえので課題と解決策




同様に、同じ国土交通省の調査には、3次元設計やICT建機以外の点でも、「(起工測量において)点群計測のため、(除草等により)地盤面を露出させる必要があった」「(出来形計測・出来形管理において)土質や施工法毎の数量算出が必要なため、従来手法による計測が必要」など、ICT施工への対応に戸惑う意見が寄せられています。

これを受けて国土交通省は、機器・ソフトウェアの使い方についてノウハウの向上・共有が重要であるという認識から、地方自治体発注工事をフィールドとして現場支援型モデル事業を実施しています。

これは、19の自治体発注工事において、ICT活用を実施した事例をもとに、発生しうる課題と対応事例をチェックシートにわかりやすく整理したものです。
参照:ICT施工の普及拡大に向けた取組(国土交通省)(http://www.mlit.go.jp/common/001303213.pdf

<チェックシートと参照情報>
国土交通省「ICT活用における課題と対応事例」
http://www.tochiken.or.jp/tochigi/i-con_download/2019/20191030tochigi-i-con.pdf

ICT施工導入に際して自社で課題が発生しないか心配な場合は、まずはこの課題をひととおり読んで他の事業者の事例を把握しておくとよいでしょう。

既にICT施工を導入済みで課題を感じている場合は、チェックシートを参照することで対応策として示される事例を確認しましょう。それでも解決が困難な場合は、その資料を元に行政の担当者と相談するとよいでしょう。現在の問題意識を共有しやすくなるため、解決策が見つかりやすくなるはずです。

今後進むICT施工の地方への普及




ICT施工は少子高齢化と過疎化が進む地方の労働力不足を補い、老朽化するインフラを効率よく更新していくために欠かせないテクノロジーです。

ICT施工の全国的な普及はまだこれからですが、国は全国的な普及を目指して施策を継続・改善していることから、今後急速に広がっていくことは間違いありません。

特に若年層の人手が確保できなくなりつつある地域においては、ICT施工の導入なしでは建設業の事業存続が覚束なくなることもあるかもしれません。地域から建設業が失われてしまえば、住民の安全な生活と経済活動は危ういものになるでしょう。

地域の建設業の安定した事業継続は国や地方自治体の政策に欠かせないものです。地域の建設業を持続可能なものにするためにも、行政によるICT施工の普及施策は今後も継続してより強力に推し進められていくでしょう。

最新の基準やマニュアルのキャッチアップを




ICT施工については、国土交通省が2025年までに建設現場の生産性を20%向上させることを目標としています。

そのため、今後も少なくとも2025年までは毎年のように新しい施策が行われ、要領や積算基準が改善されていくことが予想されています。

用意されている国や地方自治体の支援の効果を得るためには、行政から発信される情報を収集し、最新の動向をキャッチアップできるようにしておきましょう。

可能であれば、専任担当者を決めたうえで情報収集をできる体制を整えておきましょう。難しければ、経営者や現場担当者が行政の開講する講習や民間企業の説明会・講習会に参加し、基本的な情報を得るとともに、情報交換をできる人脈を作っておきましょう。

詳しく情報を得てみると、ICT施工について課題やデメリットだと感じていた事柄に対し、既に解決策が示されている場合もあります。

ICT施工は今後も種類・規模とも拡充の見込み




国土交通省が推進するICT施工の導入による生産性向上を目指す取り組み「i-Construction」では、2025年までのロードマップが作成されており、今後も支援策や普及策の実施や拡充が予定されています。

i-Construction推進に向けたロードマップ
http://www.mlit.go.jp/tec/i-construction/pdf/180601_roadmap.pdf

上記の「i-Construction推進に向けたロードマップ」では、2025年の段階で新3K(給与が良い、休暇がとれる、希望がもてる)の魅力ある建設現場を実現すること、Society5.0を支えるインフラマネジメントシステムの構築を行うことが想定されています。

ICT施工の普及はまだ新しいことのようにも聞こえますが、ロードマップ上では既に終盤の仕上げの時期に差し掛かってきています。ICT施工普及への取り組みは今後も「ICT舗装工」「ICT浚渫工」「ICT浚渫工(河川)」などに広がるとともに、規模も拡大する見通しですが、2025年以降はどうなるかは分かっていません。

ICT施工の導入を検討されている場合は、見通しがつくうちに着実に情報を得たうえで、行政によるサポートをうまく活用するようにしましょう。
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