2020 08.06
ICT施工の基礎知識

「ICT施工」の効果はどの程度?時間短縮・効率化の現状について解説

人手不足が深刻化する建設業界において、問題解決の一つとして期待が寄せられる「ICT施工」。建設業の事業プロセス全体にICT(情報通信技術)を導入することで、生産性向上をはかる取り組みです。 しかし、ICT施工の導入においては導入コストが高額なことから、導入後の効果が得られるか否かが大きな関心事となっています。 本記事ではICT施工の導入効果について、国土交通省の実施した調査結果などに基づき解説します。

「ICT施工」の効果への評価は高い




ICT施工の導入効果については、ICT施工導入促進を実施している国土交通省が継続的に調査を実施しています。

たとえば、平成30年1月31日までに完成工事となった「平成29年度ICT活用工事実施全受注者」を対象にした実績に基づく調査では、起工測量から工事完成までの作業時間において、平均26.2%の削減効果が得られたという結果が出ています。

同調査によると、ICT施工については「省力化・効率化」に関する満足度が高く、特に「ICT建機の稼働履歴データを用いた工事の進捗把握の効率化」では87%の回答者が「高評価」と答えています。

ICT施工を導入するメリットとは




ICT施工の導入においては、上記のアンケート結果のようにさまざまなメリットがあります。

「ICT施工」は情報通信技術(Information and Communication Technology)を活用することで生産工程の各工程を高効率・高精度化し、生産工程全体の品質を高く保つとともに、生産性の向上を実現することを指します。

具体的には、ドローンで撮影した写真やレーザースキャナーによる計測で点群データを取得し、3次元測量データを作成することから始まり、3次元設計データを作成することで、その後の施工や出来形管理、検査までを自動化・効率化することができます。

3次元設計データと現況測量データを比較することで施工の際の土量を自動で算出したり、設計データと位置情報を建設機械に送信することで自動ガイダンスや自動コントロールによる施工を行ったりすることができます。

出来形管理や検査においても、ドローンやレーザースキャナーを活用した測量やデータによる納品を行うことで、これまでの工程を大幅に時短・省力化することが可能です。

アンケートの結果は、これらの効果が現場で実現したことが示されているといってよいでしょう。

ICT施工にデメリットはないのか




それでは、ICT施工の導入における問題点や課題はないのでしょうか。

国土交通省が建設現場へのICT導入を円滑に実施したうえで普及推進するために開催している「ICT導入協議会」の資料によると、課題として以下のような意見が現場から寄せられています。

ICT活用における課題(一部抜粋)
・暫定形状のため標高の設定がなく、平場部分の三次元設計データが作成できない
・橋梁下部で衛星の取得ができない
・(空港等の周辺空域に)該当しているため、UAV飛行許可を申請する必要がある
・他工種を待つ必要がある(ICT建機を長期拘束し、コスト増になる可能性がある)
・数回に分けて出来形計測が必要であり不効率である
国土交通省「ICT活用における課題と対応事例」より(https://www.mlit.go.jp/common/001299661.pdf)

これらの課題からは、現場の状況によっては単純にICT建機など関連機材の導入のみでは効果が得られない場合があることがわかります。

これらの意見については、資料によれば、「(設計確定の)法面と(標高未確定の)平場部を分けて(設計データを)作成」したり、「(マシンガイダンスバックホウについて)3Dの目印をもとに2Dで施工することで3Dの早期返却が可能」にしたりするなどの対応策によって解決が行われています。

ICT施工は情報通信技術の活用によってこれまでの建設現場の課題を解決し、省力化・短時間化を実現する建設システムではありますが、状況によっては現場の運用と相性が悪いところもあります。

しかし、その相性の悪さは一面的に判断できるものではありません。上記のように解決策をもってすれば、結果的に課題を解消し全体の生産性向上を実現することも可能だからです。

導入後の効果について疑問や不安がある場合は、各都道府県の地方整備局に類似事例がないかを問い合わせたり、同業者の意見交換会や行政・民間が実施する講習会などで情報を取集したりするなどして自社との相性についてよく検討するようにしましょう。

ICT施工の効果については「i-Construction」の情報も確認を




ICT施工の効果を検証するための情報は国土交通省の「i-Construction(アイ・コンストラクション)」の特設ウェブサイトで確認することができます。

i-Constructionとは国土交通省が推進する取り組みで、「ICTの全面的な活用(ICT土工)」などの施策を建設現場に導入することで、建設生産システム全体の生産性向上を図り、魅力ある建設現場をつくることを目指すものです。

特設ウェブサイトでは、i-Construction委員会による報告書や資料類、2025年までの取り組みのスケジュールを示した「ロードマップ」、ICT土木(ICT土工)の事例集、ベストプラクティスの事例を表彰し紹介する「i-Construction大賞」についての情報などが得られます。
また、関連情報へのリンクも示されているので、最新情報や正式な情報が必要な場合は、必ず参照しましょう。

 

ICT施工の効果についての検証は自社の業務への深い理解と国の推し進める政策、行政・民間企業の最新動向についての情報収集が欠かせません。

導入を検討する場合は、表面的な情報により判断するのではなく、広く情報を集めたうえで自社の「生産性向上」のために何をどう活用すべきかを詳細に考えてみましょう。
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