2020 08.06
ICT施工の基礎知識

「ICT施工」で何を改善できる? 建設事業者の課題解決手法を解説

世界標準と比較して生産性が低いと言われている日本の建設業界国土交通省の資料によると、日本の建設業の生産性は米国の8割ほどしかなく、改善が急がれています。 

特に土工や現場打ちコンクリート工の施工現場では、丁張りや足場の設置などに多くの人手を要している現状があり、国は建設現場にICT(情報通信技術:Information and Communication Technology)を導入することで建設生産システム全体の生産性向上をすべく、数年前から多くの取り組みを実施しています。

本記事では、このICT導入による生産性向上において注目されている「ICT施工」について解説するとともに、ICT施工が建設業における何を改善するかについて具体的に説明していきます。

ICT施工で何が改善できる?




ICT施工は、建設システムにICTを導入することで、建設工事の調査、設計、施工、監督、検査、維持管理などの各工程を高効率化・高精度化し、全体の生産性を向上させる取り組みです。

代表的な工程を挙げれば、以下のようなものがあります。

  • ドローン(UAV)で撮影した画像データやレーザースキャナーで取得した点群データを用いた3次元測量による作業時間の短縮、高精度化

  • 3次元設計データの作成による各工程の効率化、高精度化

  • ICT建機を使用することによる作業時間の短縮、作業の省略、熟練技能要件の緩和

  • 3次元設計データと3次元測量データを活用した出来形管理の簡素化

  • 3次元設計データと3次元測量データを活用した検査の簡素化、高精度化


ICT施工の特徴は、詳細なデータを短時間で取得したり、そのデータを活用した高精度な施工や検査を実施したりできること、データを一元管理することで書類作成などの管理業務を簡素化したりできることです。

上記の利点を現場で活かすことができるようになれば、建設現場における人手が少なく済み、熟練技能が必須の現場を減らすことができると予想されています。

また、出来形管理や検査のために必要な手続きが簡素化されるため、書類作成業務などの事務負担も大幅に軽減されることが見込まれています。

ICT施工の導入を後押しする「i-Construction」




ICT施工は、建設業における人手不足や生産性の低さ、労働環境の悪さを憂慮している国によっても大々的に推進されています。

国土交通省は2016年専門家委員会による報告書「i-Construction ~建設現場の生産性革命~」を取りまとめ、「ICTの全面的な活用(ICT土工)」等の施策を建設現場に導入することによって、建設生産システム全体の生産性向上を図り、魅力ある建設現場を目指す取り組みである「i-Construction(アイ・コンストラクション)」を開始しました。

国や地方自治体において、大規模工事はICT土工の実施を義務化したり、工事の入札時に総合評価で加点したり、受注者の提案・協議によりICT土工を実施可能とする「ICT活用工事」を発注することでICT施工の普及を促進しており、特に近年では都道府県・政令市での公告件数が大幅に増加しています。

参照:「ICT活用工事の実施状況(H30年度)」(国土交通省) (https://www.mlit.go.jp/common/001275855.pdf

ICT活用工事に関しては、i-Constructionの推進拡大のためにICT 建機施工の機械経費に関して市場の単価を反映するなど、さまざまな点で積算基準の改定が実施されてきました。

参照:「令和2年度国土交通省土木工事・業務の積算基準等の改定」(国土交通省) (https://www.mlit.go.jp/report/press/content/001328028.pdf

また、i-Constructionのウェブページではi-Constructionを活用した革新的な事例を表彰・紹介する「i-Construction大賞」を受賞した企業の実例が掲載されているほか、導入を検討している企業にとって関心が高い「ICT活用工事(土工)実施要領」「施工履歴データを用いた出来形管理要領」などの要領へアクセスできるリンクも紹介されています。

ICT施工の導入で現場はどう改善するか




それでは、ICT施工を導入すれば現場はどう改善するのでしょうか。

国土交通省の資料によると、ICT施工には以下の3つのポイントがあります。

  • 3次元測量

  • ICT建設機械による施工

  • 検査日数・書類の削減


また、上記を実現することによる生産性向上には「工事日数削減」「省人化」の2要素があると説明されています。

「工事日数削減」については現場作業の高度化・効率化により工事日数を短縮化し、休日を拡大することが「省人化」についてはICTの導入等により中長期的に予測される技能労働者の減少分を補完することが期待されています。

ICT施工を推進するi-Constructionには目標が掲げられており、上記の効果を実現した結果、2025年には建設現場の生産性を20%向上することが目指されています。

参照:「建設分野の生産性向上について」(国土交通省) (https://www5.cao.go.jp/keizai-shimon/kaigi/special/reform/wg6/181029/pdf/shiryou1.pdf

ICT施工導入におけるデメリットとその対処




一方で、民間事業者がICT施工を導入する際には「デメリット」と捉えられやすい側面もあります。

それは、ICT施工実施における高額な設備への投資と、その設備を扱う人材の不足です。

ICT施工を実施するには、ICT施工に対応する測量機器やICT建機、測量データや3次元設計データを取り扱うためのソフトウェアなどが必要です。特に高額なICT建機については、レンタルで対応する企業も多くありますが、その場合はいかにICT建機のレンタル期間を短くし費用を抑えるか工夫をする必要があります。

また、設備を扱いについては特に起工測量やその後のソフトウェアを使った3次元起工測量データの処理、3次元設計データの作成などを中心に人材が不足をしている企業が多いようです。

国土交通省の平成29年度の調査によると、ICT活用工事を実施した事業者のうち、92%は起工測量を、83%は3次元起工測量データの処理を、71%は3次元設計データの作成を外注していました。

参照:「H29年度ICT土工の効果分析」(国土交通省) (https://www.mlit.go.jp/common/001226088.pdf

ICT施工においては、ICT建機は運転さえできれば施工における技能は緩和されますが、測量やソフトウェアを使ってのデータ処理やデータの作成については、これまで扱っていた2次元のデータの処理とは異なった操作を習得しなければなりません。

これらの設備投資費用の問題や、3次元データを扱う人材の不足は国もよく認識しています。積算基準を改訂することでICT施工に必要な設備を使用することによる費用を加算できるようにし、国や地方自治体による講習を実施することでICT施工に関する設備を扱う人材の育成をバックアップする体制を整えています。

国の規定や助成についてのアナウンスに注目




ICT施工の普及については、国が具体的な目標を定めて推進していることもあり、ICT施工の導入を検討している企業にとっては支援が非常に充実している状況となっています。

しかし、その支援をうまく活用するには国の施策への十分な理解と行政や関係企業とのスムーズな協力体制が欠かせません。

積算基準や実施要領など費用や運用に大きくかかわるものが毎年のように改訂されているため、行政の動向については常に情報収集をすることが必要です。

国土交通省が発信するi-Constructionのウェブページで公式情報を確認するほか、行政の担当者、取引のある測量会社やコンサルティング会社、レンタル会社などとは定期的に情報交換をすることで現状と今後の見通しについて把握をしておきましょう。

行政や民間企業が実施する講習を受講することもよい情報収集の機会となります。講師はi-Constructionの現状に通じているはずですので、講義で最新の情報を得るとともに、不明な点があれば質問などを通じて疑問を解決するようにしましょう。

ICT施工で真の「改善」を達成するために




ICT施工はICTを建設現場に導入することで、建設業の抱える多くの問題点を改善しようとする試みです。

情報通信技術を活用するため、設備費用が高額となり、設備の扱いにも一定程度の習熟が必要という側面は確かにありますが、うまく活用できれば数年で投資を回収でき、今後の人手不足による事業継続の不安も取り除けるというメリットがあります。

そのメリットを実現するために欠かせないのは、制度やICT活用についての深い理解に他なりません。

ICT施工は単に設備を導入すれば効率化が実現するものではありません。便利で省力化できる機材をどこに投入すれば効率があがるのか、限られた人材の価値をICT施工の活用通じてどう最大化するのかを考える必要があるのです。

自社の事業への深い理解と、新しい「ICT施工」への理解の両輪があってはじめて、生産性の向上ははかれるのです。
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