2020 06.04
ICT施工の基礎知識

ICT施工の意味とは?用語・背景・効果などから解説

「ICT施工」は建設業界において近年盛んに導入が検討されている建設システムです。用語時代は10年ほど前から使われていますが、特定の業界内で使用される用語であり、指す内容が技術の進歩によって変化していることから、まだ使われ方や意味が定まっているとはいえません。
本記事ではその「ICT施工」について、用語が現在指し示す内容や用語が生まれた背景について解説するとともに、建設システムである「ICT施工」を導入した場合の効果についても解説します。

用語「ICT施工」の意味




「ICT施工」は2008年ごろに生まれた用語です。

当時はICTを建設現場の施工に活用する手法などが普及し始めた段階で、高い生産性と施工品質を実現する施工システムとして官民から期待が寄せられていました。

【当時の主なICT施工】

  • 建設機械のマシンガイダンスやマシンコントロール(自動制御)

  • TS(トータルステーション)やGNSS(全球測位衛星システム)による出来形管理

  • 建設プロセスの各段階での情報を統合管理する品質管理


そのなかでも、当時行政が普及を推進していたのが、「施工」を中心にICT技術を導入する「情報化施工」でした。
ICTの活用により、施工から得られる電子情報を他のプロセスに活用することで、建設生産プロセス全体の生産性の向上や品質の確保を実現しようとする手法です。

この「情報化施工」を民間事業者が分かりやすい俗称として置き換えた用語が「ICT施工」です。

この後、建設プロセス全体でのICTの導入については、新たな手法が生まれ、現在は「施工」を中心に考える方法は過去のものになりました。

現在国土交通省は、建設プロセスの「測量、設計・施工計画、施工、検査」のすべてにICTを導入し、3次元データを作成し一貫して使用することで生産性の向上を目指す「ICT土工(ICTの全面的な活用)」を提唱しています。

このため、民間で使われ始めた「ICT施工」の意味合いも「すべての建設プロセス(測量、設計・施工計画、施工、検査)にICTを導入し、3次元データを活用することで生産性向上をはかること」に変化しています。近年は行政資料のなかでも「ICT施工」の用語が使われることが増えてきましたが、あくまで「建設業の生産プロセスにICTを導入すること」という大きな枠組みを示す意味で使われているようです。

「ICT施工」が生まれた背景




建設業にICTを導入する施策については、1990年代から官民において開発や研究が進められてきました。

1997年、国土交通省は「情報化施工促進検討委員会」を設置し、建設産業への情報通信技術を活用した合理的な建設生産システムの導入・普及を促進する検討を始めています。

そのあいだ、海外では日本に一歩先駆けて情報化施工への関心が高まり、建機を自動制御するマシンコントロールシステムの導入が進んでいました。

しかし、当時の日本ではバブル崩壊直後の1992年をピークに建設投資が減少の一途をたどっており、建設業における経営環境は安定せず、人余りの時代が続いていました。世界では情報化施工の導入による生産性の向上が進む一方で、日本では設備投資が行われず、労働集約的な対処が長らく続いてきました。

日本が世界標準から立ち遅れる状況のなか、ICTを利用した機械制御や計測を行い、建設生産システムを高度化することで課題に対して「イノベーション」を実現しようと策定されたのが2008年の「情報化施工推進戦略」です。

この「情報化施工推進戦略」の取り組みが進むにつれて、「ICT施工」「建設ICT」などの言葉も普及するようになりました。

ICTを導入することでもたらされる効果




現在、建設業へのICT導入に関しては、2008年の「情報化施工推進戦略」策定時から技術も制度も大きく進歩しています。

先に述べたように、現在は「測量、設計・施工計画、施工、検査」のすべてにICTを導入し、3次元データを活用して一括管理を実施することが想定されています。

ICTを活用した測量機器や建設機械を導入し、3次元データを使って設計データと施工前・施工後の測量データを比較することで、一例として以下のような省人可・工事日数の削減ができるようになりました。

・UAV(ドローン)を活用した測量やレーザースキャナーを用いた測量
少人数で行うことができ、膨大な点群データを短時間で取得することができる

・3次元測量データ(現況地形)と設計図面の差分の比較
専用のソフトウェアを使うことで施工量(切土、盛土量)を自動算出することができる

・ICT建機(ショベルなど)を活用した施工
マシンガイダンス、マシンコントロール(自動制御)機能により、丁張りなどの工程を不要にすることができる。マシンコントロールにより、高度な施工についての熟練技能が不要になる

・出来形管理の書類の省略や省力化
施工履歴データを用いて出来形の自動算出することにより、作成書類を省略することができる。UAV(ドローン)などで撮影した写真測量、レーザースキャナーを用いた測量により、出来形管理の省力化が可能になる。

ICT施工による業界構造の転換も




また、ICT施工の導入については、導入事業者に直接的にもたらされるメリットである「生産性向上」のほかにも、副次的な効果も見込まれています。

それは、省人化 ・工事日数の削減によりもたらされる労働環境の改善とその先にある多様な人材の獲得です。

ICT施工による省人化・工事日数削減がもたらされれば、建設現場の運用にゆとりが生まれます。
国土交通省の資料によると、建設業における死傷事故は全産業平均の2倍で、要因は「建設機械との接触」が「墜落」に次いで多くなっています。これは、過密なスケジュールで施工するため、稼働する建設機械周辺で丁張り設置作業を行っていることが要因の一つと考えられています。

ICT施工により、丁張り作業が不要となるほか、スケジュールのゆとりが生まれることで稼働建機の傍で人が作業をする必要がなくなれば、現場の安全性は向上するでしょう。

また、工事日数の短縮により長時間の拘束が解消されれば、子育てや介護などさまざまな理由で長時間働くことができない人材の活用が見込まれます。

ICT施工を導入すると、現場で測量や施工をする人員は少なく抑えられ、ソフトウェアを活用して3次元データの作成や自動算出する人材が必要となるため、施工現場に赴くことができない人材の活躍の場も広がります。

加えて、建機の自動制御やソフトウェアによる自動算出であれば、詳細なマニュアルさえあれば、経験の積み重ねによる熟練技能を身に着ける必要が緩和されます。そうなれば、多言語のマニュアルを用意することができれば、口頭での指導が難しい外国人人材の活用の場も広がるでしょう。

このように、ICT施工の導入は、建設業界の労働環境を改善し、就業者数の減少傾向が続く建設業界における持続的な人材確保に大きな効果をもたらすことが期待されているのです。

ICT施工は建設業界の未来に重要な意味をもつ




これまで述べてきたように、「ICT施工」は建設業界の将来に重要な意味をもつキーワードです。

近年話題にはなっていますが、新しい用語ではなく、10年ほどかけて日本の建設業界への普及が試みられてきた概念でもあります。

いま行政における「ICT施工」の施策は改善を繰り返し、民間事業者が取り入れやすいものとなっています。2016年の第1回未来投資会議では安倍晋三首相から建設現場の生産性を2025年までに20%向上させるという目標も示されました。

2025年までを目途に「ICT施工」の普及は急激に進むことになるでしょう。

建設業界の就業形態には大きな変化の波が訪れることが予想されています。

 
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