2020 09.11
ICT施工の基礎知識
ICT施工の歴史を解説! 導入の経緯・情報化施工との関係は?
建設現場においてICT(Information and Communication Technology:情報通信技術)を活用することで、生産性や品質、安全性の向上をはかるICT施工。その取り組みはいつから始まったのでしょうか。
本記事では、ICT施工を推進する国土交通省の取り組みを中心に、ICT施工の歴史を解説します。
ICT施工の歴史は、「情報化施工」から始まりました。
「情報化施工」とは、建設事業の「施工」に注目してICTを活用することにより各プロセスから得られる電子情報をやりとりし、高効率・高精度な施工を実現することを指します。
1970年代に「情報化施工」の概念が提唱されて以降、主に学術分野において「情報化施工」の検討・検証が行われました。
当時の「情報化施工」は、施工中の現場計測から得られた情報によって設計段階の設計案(事前設計)を検討し直し、施工中の設計変更(事後設計)に柔軟に対応することを目的としたものでした。
学術分野を中心に検討が進められた結果、国土交通省は1997年に情報化施工促進検討委員会を設立し、産・学・官の連携のもと情報化施工を普及促進する方法を模索してきました。
参照:渡辺一弘「情報化施工のビジョン 21世紀の建設現場を支える情報化施工―」建設マネジメント技術,2001年6月号,p43-46
(http://kenmane.kensetsu-plaza.com/bookpdf/101/ai_02.pdf)
その結果、2001年3月に策定されたのが「情報化施工のビジョン-21 世紀の建設現場を支える情報化施工-」です。
ここでは、情報化施工の実現に向けた課題や、産・学・官が果たすべき役割について提言が行われました。
その後、2007年には国土交通省により「ICTが変える、私たちの暮らし~国土交通分野イノベーション推進大綱~」が策定され、社会資本整備・管理の効率化、生産性の向上の観点から情報化施工を推進する方針が示されます。
これを受けて、国土交通省は2008年2月に産学官それぞれの分野の有識者による「情報化施工推進会議」を設置。同年7月には「情報化施工推進戦略」を策定します。
この戦略に基づいて、国土交通省により「情報化施工」が推進されることになりました。
具体的には、国土交通省はその直轄工事において大規模の工事では2010年度までに、中・小規模の工事では2012年度までに情報化施工を標準的な施工・施工管理方法とすることを目標として示しています。
また、情報化施工について、「建設事業の調査、設計、施工、監督・検査、維持管理という建設生産プロセスのうち『施工』に注目して、ICTの活用により各プロセスから得られる電子情報を活用して高効率・高精度な施工を実現し、さらに施工で得られる電子情報を他のプロセスに活用することによって、建設生産プロセス全体における生産性の向上や品質の確保を図ることを目的としたシステム」と定義を行っています。
2015年、国土交通省は建設現場でのICT導入を測量・設計から施工、管理にいたる全プロセスに広げることを発表します。
「施工」プロセスに留まらないこの新たな取り組みは「i-Construction(アイ・コンストラクション)」と名付けられました。
参照:「2015年11月24日石井大臣会見要旨」(国土交通省)
(https://www.mlit.go.jp/report/interview/daijin151124.html)
同年にi-Construction委員会が設置され、翌2016年には同委員会から報告書「i-Construction~建設現場の生産性革命~」が提出されます。
ここで提唱されたi-Constructionの3つの施策のうちの一つが「ICT技術の全面的な活用」つまり、現在「ICT施工」と呼ばれているものです。
現在国土交通省により推進されている「i-Construction(アイ・コンストラクション)」においては、「ICT技術の全面的な活用」「ICT土工」「ICT活用工事」をはじめとするさまざまな用語が使われています。
これらはそれぞれ、何を指すのでしょうか。一つひとつ整理してみましょう。
「ICT技術の全面的な活用」は、i-Constructionの3つのトップランナー施策のうちの一つの名称です。
施工段階のみにICTが導入されていた「情報化施工」の段階からさらに進歩し、建設プロセスのすべての工程で3次元データを中心としたICTを活用し、効率化・高精度化を実現するための施策が数多く実施されています。
具体的には、ドローン(UAV)やレーザースキャナ(LS)などを活用した測量、出来形管理のための監督・検査基準などの整備、ICT建機などの設備をレンタル・導入するための積算基準の改定、ICT活用工事に対応できる技術者・技能労働者の育成事業などが行われています。
2016年当初は、まずは重点的に土工分野においてこの取り組みが行われていたので、「ICT技術の全面的な活用(ICT土工)」という表記となっていましたが、現在はその対象は「ICT舗装(コンクリート舗装)工」「ICT浚渫工」など多分野に広がっています。
土工分野におけるICTの全面的な活用を指します。
計画・測量・設計・ICT建機を用いた施工、出来形管理、完成図書の納品に至るまで、3次元データを活用した一元管理を実施することで、効率化・高精度化、安全性の向上をはかる取り組みが行われています。
多分野の同様の取り組みとしては、「ICT舗装(コンクリート舗装)工」「ICT浚渫工」などがあります。
ICT活用工事は、国土交通省や地方自治体発注の工事のうち、すべての段階で3次元起工測量、3次元設計データ作成、ICT建機による施工、3次元出来形管理などの施工管理、3次元データの納品など、ICTを全面的に活用する工事のことを指します。
ICT活用工事の対象か否かは、入札公告・説明書と特記仕様書に明示されています。
発注方式には「発注者指定型」と「施工者希望型」があり、前者は発注者の指定によって「ICT活用工事」を実施するため、必要な経費を当初設計で計上します。後者は、受注者の希望によって「ICT活用工事」を実施する場合で、必要な経費を設計変更にて計上します。
参照:「ICT活用工事の実施方針」(国土交通省)
(https://www.mlit.go.jp/common/001137295.pdf)
ICT施工は、上記のうち「ICT技術の全面的な活用」と同じ意味合いで使われている言葉です。建設プロセスの各段階で、ICTを全面的に活用することで生産性や施工精度、安全性を向上することを指しています。
また、この用語が使われる範囲は国土交通省や地方自治体の発注工事に限りません。ICTを全面的に活用した民間発注の工事を指す言葉としても、広く使用されていることが特徴です。
類似する用語に「建設ICT」があります。「ICT施工」「建設ICT」は共に、ICTを活用した建設プロセスの効率化・高精度化を包括する概念として、民間を中心に使用されています。
上記の「i-Construction」にかかわる取り組みのうち、焦点となっているのは3次元データの活用です。
ICT活用工事においては、施工のみならず、計画・測量・設計・出来形管理・完成図書の納品に至るすべての工程で3次元データを活用し、一元管理を行うことで効率化を行い、生産性を向上させることが目的とされています。
このため、前提となる3次元データが各工程で活用されていなければ、効率化を実現することができません。
しかし、ICT活用工事においては発注者である国土交通省が2次元設計データによる発注を行い、受注者が3次元設計データを作成する必要があるため、当初は「発注者から3次元設計データを提供してほしい」等の要望も寄せられていました。
また、平成29年度 のICT活用工事受注者に対して行われたアンケートによると、3次元起工測量や3次元設計データの作成を自社で担える企業はまだ少なく、多くの企業が3次元データに関する作業を外注して対応しているという結果も出ていました。
参照:「H29年度ICT土工の効果分析」(国土交通省)
(https://www.mlit.go.jp/common/001226088.pdf)
国土交通省はこの結果を踏まえ、中小企業への支援策としてICT活用工事に関する研修を充実させ、地方整備局技術事務所などによる3次元設計データの提供をはじめとしたサポート・支援などを実施しています。
参照:「H30年度より開始する事項」(国土交通省)
(https://www.mlit.go.jp/common/001226090.pdf)
今後、建設業界に国土交通省の取り組みである「i-Construction」が浸透し、ICT施工が普及するためには、上記の3次元データの活用が建設事業者に根付くことが不可欠だといえるでしょう。
i-Constructionが始まり数年が経ち、多くの事業者がICT施工を導入してきました。
その事業者の事例をもとに自社への導入を検討することはできるのでしょうか。
これまでのICT活用工事の事例については、国土交通省が優れた取組の事例を「i-Construction大賞」として表彰・発表していますので、参照するとよいでしょう。
「i-Construction大賞」は2017年度から始まった取り組みで、毎年25団体ほどが国土交通省により表彰されています。
表彰された企業とその取り組みの概要は、国土交通省の「i-Construction」の特設WEBサイト内に掲載されています。各企業がICTを活用することで、固有の課題をいかに解決したかが端的にまとめられていますので、ICT施工に関する設備の導入や、ICT活用工事への入札を検討する場合は参考にするとよいでしょう。
参照:「i-Construction大賞(令和元年度)」(国土交通省)
(https://www.mlit.go.jp/tec/i-construction/award/award2019.html)
ほかにも、同「i-Construction」の特設WEBサイトには、ICT事例集として土工、測量それぞれの事例も掲載されています。i-Construction大賞受賞企業と比較して1件あたりの情報量は少ないですが、掲載数が多いため、幅広い事例から自社の状況と似たものを探すことができます。
ICT施工は、2025年に向けて大きく進展する見込みです。
建設業界の生産性については、2016年の第1回未来投資会議で安倍晋三首相から「建設現場の生産性を、2025年までに20%向上させる」と宣言が行われました。
参照:「首相官邸 総理の一日 平成28年9月12日 未来投資会議」(内閣官房内閣広報室)
(https://www.kantei.go.jp/jp/97_abe/actions/201609/12mirai_toshi.html)
このため、i-Constructionにおいても、2025年に向けてのロードマップが作成されており、2025年には生産性を2割向上させることが目標となっています。
また、国土交通省は、ICT施工の導入で生産性が向上した結果として、以下の成果を得ることを目指しています。
・新3K(給与が良い、休暇がとれる、希望がもてる)の魅力ある建設現場を実現
・Society 5.0を支えるインフラマネジメントシステムの構築
※Society 5.0:サイバー空間(仮想空間)とフィジカル空間(現実空間)を高度に融合させたシステムにより、経済発展と社会的課題の解決を両立する、人間中心の社会(Society)
参照:「 i-Construction推進に向けたロードマップ」(国土交通省)
( https://www.mlit.go.jp/tec/i-construction/pdf/180601_roadmap.pdf)
現在、建設業の就業者数は長期的に見て減少傾向にあります。そのため、今後の国の産業や国民の生活を支える道路や港湾、灌漑・治水施設などをはじめとするインフラストラクチャーの継続的な運営を支える建設業の持続的な運営が課題とされていました。
参照:「i-Construction ~建設現場の生産性革命~(概要版)」(国土交通省)
(https://www.mlit.go.jp/common/001137123.pdf)
ICT施工の普及によって生産性が向上すれば、たとえ就業者数が減少したとしても、より少ない日数で現場を運営することができるようになります。
また、新3Kのように魅力ある現場となることで、建設業へ多様な人材が集まることが期待されているのです。
参照:「i-Constructionによる建設現場の生産性向上」(国土交通省)
(https://www5.cao.go.jp/keizai-shimon/kaigi/special/reform/wg6/20200507/pdf/shiryou2.pdf)
ICT施工の歴史を振り返ってみると、その内容は時代ごとに大きく変化してきたことが分かります。
初期の「情報化施工」の時代は、あくまで「施工」に焦点が当てられ、その自動化や高精度化、効率化が注目されていました。しかし、現在の「ICT施工」はまったく考え方が違います。
現在のICT施工が目指している効率化は、各工程におけるさまざまな関係者が「3次元データ」という共通のデータを参照することで、スムーズに連携し、結果として全体の労力を削減し、かつ安全な環境で高精度な施工を実現することを指しています。
今後もICTの技術が進歩し、私たちの周囲のテクノロジーが発展するに伴って、ICT施工のアプローチも変化していくでしょう。
ICT施工の歴史に見る取り組みの変化は、ICT施工の今後の動向を考えるうえでも大いに参考になるはずです。
(2020年9月11日)
本記事では、ICT施工を推進する国土交通省の取り組みを中心に、ICT施工の歴史を解説します。
ICT施工の歴史は「情報化施工」から始まった
ICT施工の歴史は、「情報化施工」から始まりました。
「情報化施工」とは、建設事業の「施工」に注目してICTを活用することにより各プロセスから得られる電子情報をやりとりし、高効率・高精度な施工を実現することを指します。
2000年代以前 「情報化施工」の提唱
1970年代に「情報化施工」の概念が提唱されて以降、主に学術分野において「情報化施工」の検討・検証が行われました。
当時の「情報化施工」は、施工中の現場計測から得られた情報によって設計段階の設計案(事前設計)を検討し直し、施工中の設計変更(事後設計)に柔軟に対応することを目的としたものでした。
2001年 国土交通省「情報化施工のビジョン-21 世紀の建設現場を支える情報化施工-」の策定
学術分野を中心に検討が進められた結果、国土交通省は1997年に情報化施工促進検討委員会を設立し、産・学・官の連携のもと情報化施工を普及促進する方法を模索してきました。
参照:渡辺一弘「情報化施工のビジョン 21世紀の建設現場を支える情報化施工―」建設マネジメント技術,2001年6月号,p43-46
(http://kenmane.kensetsu-plaza.com/bookpdf/101/ai_02.pdf)
その結果、2001年3月に策定されたのが「情報化施工のビジョン-21 世紀の建設現場を支える情報化施工-」です。
ここでは、情報化施工の実現に向けた課題や、産・学・官が果たすべき役割について提言が行われました。
2008年 国土交通省「情報化施工推進戦略」の策定
その後、2007年には国土交通省により「ICTが変える、私たちの暮らし~国土交通分野イノベーション推進大綱~」が策定され、社会資本整備・管理の効率化、生産性の向上の観点から情報化施工を推進する方針が示されます。
これを受けて、国土交通省は2008年2月に産学官それぞれの分野の有識者による「情報化施工推進会議」を設置。同年7月には「情報化施工推進戦略」を策定します。
この戦略に基づいて、国土交通省により「情報化施工」が推進されることになりました。
具体的には、国土交通省はその直轄工事において大規模の工事では2010年度までに、中・小規模の工事では2012年度までに情報化施工を標準的な施工・施工管理方法とすることを目標として示しています。
また、情報化施工について、「建設事業の調査、設計、施工、監督・検査、維持管理という建設生産プロセスのうち『施工』に注目して、ICTの活用により各プロセスから得られる電子情報を活用して高効率・高精度な施工を実現し、さらに施工で得られる電子情報を他のプロセスに活用することによって、建設生産プロセス全体における生産性の向上や品質の確保を図ることを目的としたシステム」と定義を行っています。
2016年 国土交通省「i-Construction~建設現場の生産性革命~」の策定
2015年、国土交通省は建設現場でのICT導入を測量・設計から施工、管理にいたる全プロセスに広げることを発表します。
「施工」プロセスに留まらないこの新たな取り組みは「i-Construction(アイ・コンストラクション)」と名付けられました。
参照:「2015年11月24日石井大臣会見要旨」(国土交通省)
(https://www.mlit.go.jp/report/interview/daijin151124.html)
同年にi-Construction委員会が設置され、翌2016年には同委員会から報告書「i-Construction~建設現場の生産性革命~」が提出されます。
ここで提唱されたi-Constructionの3つの施策のうちの一つが「ICT技術の全面的な活用」つまり、現在「ICT施工」と呼ばれているものです。
ICT施工の焦点は3次元データの利活用
現在国土交通省により推進されている「i-Construction(アイ・コンストラクション)」においては、「ICT技術の全面的な活用」「ICT土工」「ICT活用工事」をはじめとするさまざまな用語が使われています。
これらはそれぞれ、何を指すのでしょうか。一つひとつ整理してみましょう。
ICT技術の全面的な活用
「ICT技術の全面的な活用」は、i-Constructionの3つのトップランナー施策のうちの一つの名称です。
施工段階のみにICTが導入されていた「情報化施工」の段階からさらに進歩し、建設プロセスのすべての工程で3次元データを中心としたICTを活用し、効率化・高精度化を実現するための施策が数多く実施されています。
具体的には、ドローン(UAV)やレーザースキャナ(LS)などを活用した測量、出来形管理のための監督・検査基準などの整備、ICT建機などの設備をレンタル・導入するための積算基準の改定、ICT活用工事に対応できる技術者・技能労働者の育成事業などが行われています。
2016年当初は、まずは重点的に土工分野においてこの取り組みが行われていたので、「ICT技術の全面的な活用(ICT土工)」という表記となっていましたが、現在はその対象は「ICT舗装(コンクリート舗装)工」「ICT浚渫工」など多分野に広がっています。
ICT土工
土工分野におけるICTの全面的な活用を指します。
計画・測量・設計・ICT建機を用いた施工、出来形管理、完成図書の納品に至るまで、3次元データを活用した一元管理を実施することで、効率化・高精度化、安全性の向上をはかる取り組みが行われています。
多分野の同様の取り組みとしては、「ICT舗装(コンクリート舗装)工」「ICT浚渫工」などがあります。
ICT活用工事
ICT活用工事は、国土交通省や地方自治体発注の工事のうち、すべての段階で3次元起工測量、3次元設計データ作成、ICT建機による施工、3次元出来形管理などの施工管理、3次元データの納品など、ICTを全面的に活用する工事のことを指します。
ICT活用工事の対象か否かは、入札公告・説明書と特記仕様書に明示されています。
発注方式には「発注者指定型」と「施工者希望型」があり、前者は発注者の指定によって「ICT活用工事」を実施するため、必要な経費を当初設計で計上します。後者は、受注者の希望によって「ICT活用工事」を実施する場合で、必要な経費を設計変更にて計上します。
参照:「ICT活用工事の実施方針」(国土交通省)
(https://www.mlit.go.jp/common/001137295.pdf)
ICT施工
ICT施工は、上記のうち「ICT技術の全面的な活用」と同じ意味合いで使われている言葉です。建設プロセスの各段階で、ICTを全面的に活用することで生産性や施工精度、安全性を向上することを指しています。
また、この用語が使われる範囲は国土交通省や地方自治体の発注工事に限りません。ICTを全面的に活用した民間発注の工事を指す言葉としても、広く使用されていることが特徴です。
類似する用語に「建設ICT」があります。「ICT施工」「建設ICT」は共に、ICTを活用した建設プロセスの効率化・高精度化を包括する概念として、民間を中心に使用されています。
ポイントは3次元データの活用
上記の「i-Construction」にかかわる取り組みのうち、焦点となっているのは3次元データの活用です。
ICT活用工事においては、施工のみならず、計画・測量・設計・出来形管理・完成図書の納品に至るすべての工程で3次元データを活用し、一元管理を行うことで効率化を行い、生産性を向上させることが目的とされています。
このため、前提となる3次元データが各工程で活用されていなければ、効率化を実現することができません。
しかし、ICT活用工事においては発注者である国土交通省が2次元設計データによる発注を行い、受注者が3次元設計データを作成する必要があるため、当初は「発注者から3次元設計データを提供してほしい」等の要望も寄せられていました。
また、平成29年度 のICT活用工事受注者に対して行われたアンケートによると、3次元起工測量や3次元設計データの作成を自社で担える企業はまだ少なく、多くの企業が3次元データに関する作業を外注して対応しているという結果も出ていました。
参照:「H29年度ICT土工の効果分析」(国土交通省)
(https://www.mlit.go.jp/common/001226088.pdf)
国土交通省はこの結果を踏まえ、中小企業への支援策としてICT活用工事に関する研修を充実させ、地方整備局技術事務所などによる3次元設計データの提供をはじめとしたサポート・支援などを実施しています。
参照:「H30年度より開始する事項」(国土交通省)
(https://www.mlit.go.jp/common/001226090.pdf)
今後、建設業界に国土交通省の取り組みである「i-Construction」が浸透し、ICT施工が普及するためには、上記の3次元データの活用が建設事業者に根付くことが不可欠だといえるでしょう。
ICT施工の事例はi-Construction大賞を参考に
i-Constructionが始まり数年が経ち、多くの事業者がICT施工を導入してきました。
その事業者の事例をもとに自社への導入を検討することはできるのでしょうか。
これまでのICT活用工事の事例については、国土交通省が優れた取組の事例を「i-Construction大賞」として表彰・発表していますので、参照するとよいでしょう。
「i-Construction大賞」は2017年度から始まった取り組みで、毎年25団体ほどが国土交通省により表彰されています。
表彰された企業とその取り組みの概要は、国土交通省の「i-Construction」の特設WEBサイト内に掲載されています。各企業がICTを活用することで、固有の課題をいかに解決したかが端的にまとめられていますので、ICT施工に関する設備の導入や、ICT活用工事への入札を検討する場合は参考にするとよいでしょう。
参照:「i-Construction大賞(令和元年度)」(国土交通省)
(https://www.mlit.go.jp/tec/i-construction/award/award2019.html)
ほかにも、同「i-Construction」の特設WEBサイトには、ICT事例集として土工、測量それぞれの事例も掲載されています。i-Construction大賞受賞企業と比較して1件あたりの情報量は少ないですが、掲載数が多いため、幅広い事例から自社の状況と似たものを探すことができます。
ICT施工は2025年に向けて進展する
ICT施工は、2025年に向けて大きく進展する見込みです。
建設業界の生産性については、2016年の第1回未来投資会議で安倍晋三首相から「建設現場の生産性を、2025年までに20%向上させる」と宣言が行われました。
参照:「首相官邸 総理の一日 平成28年9月12日 未来投資会議」(内閣官房内閣広報室)
(https://www.kantei.go.jp/jp/97_abe/actions/201609/12mirai_toshi.html)
このため、i-Constructionにおいても、2025年に向けてのロードマップが作成されており、2025年には生産性を2割向上させることが目標となっています。
また、国土交通省は、ICT施工の導入で生産性が向上した結果として、以下の成果を得ることを目指しています。
・新3K(給与が良い、休暇がとれる、希望がもてる)の魅力ある建設現場を実現
・Society 5.0を支えるインフラマネジメントシステムの構築
※Society 5.0:サイバー空間(仮想空間)とフィジカル空間(現実空間)を高度に融合させたシステムにより、経済発展と社会的課題の解決を両立する、人間中心の社会(Society)
参照:「 i-Construction推進に向けたロードマップ」(国土交通省)
( https://www.mlit.go.jp/tec/i-construction/pdf/180601_roadmap.pdf)
現在、建設業の就業者数は長期的に見て減少傾向にあります。そのため、今後の国の産業や国民の生活を支える道路や港湾、灌漑・治水施設などをはじめとするインフラストラクチャーの継続的な運営を支える建設業の持続的な運営が課題とされていました。
参照:「i-Construction ~建設現場の生産性革命~(概要版)」(国土交通省)
(https://www.mlit.go.jp/common/001137123.pdf)
ICT施工の普及によって生産性が向上すれば、たとえ就業者数が減少したとしても、より少ない日数で現場を運営することができるようになります。
また、新3Kのように魅力ある現場となることで、建設業へ多様な人材が集まることが期待されているのです。
参照:「i-Constructionによる建設現場の生産性向上」(国土交通省)
(https://www5.cao.go.jp/keizai-shimon/kaigi/special/reform/wg6/20200507/pdf/shiryou2.pdf)
ICT施工の歴史は生産性向上のヒント
ICT施工の歴史を振り返ってみると、その内容は時代ごとに大きく変化してきたことが分かります。
初期の「情報化施工」の時代は、あくまで「施工」に焦点が当てられ、その自動化や高精度化、効率化が注目されていました。しかし、現在の「ICT施工」はまったく考え方が違います。
現在のICT施工が目指している効率化は、各工程におけるさまざまな関係者が「3次元データ」という共通のデータを参照することで、スムーズに連携し、結果として全体の労力を削減し、かつ安全な環境で高精度な施工を実現することを指しています。
今後もICTの技術が進歩し、私たちの周囲のテクノロジーが発展するに伴って、ICT施工のアプローチも変化していくでしょう。
ICT施工の歴史に見る取り組みの変化は、ICT施工の今後の動向を考えるうえでも大いに参考になるはずです。
(2020年9月11日)
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