2020 08.12
ICT施工の基礎知識

ICT施工は建設業の人材不足を解消できるのか?ICTで若手を活用

1997年をピークに就業者数の減少が続き、就業者数の高齢化も同時に進む建設業界。今後、高齢の就業者の多くは退職を迎えるため、就業者数の減少傾向は今後も改善されないと言われています。

 

一方、バブル崩壊後低迷していた建設需要は、度重なる災害からの復興需要、インフラの老朽化などにより再び高まるようになりました。

そのため、建設業界においては今後の需要に対応できる人材不足が大きな課題となっています。

現在人手が足りていないことはもちろんのこと、就業者の高齢化と若手人材の不足により、多くの現場では技術の伝承が難しくなっていると言われています。その結果、今後継続的に事業を運営することが難しくなる事業者が多く発生するのではないかと問題視されているのです。

本記事では、この問題の解決策としていま注目を集めている「ICT施工」とICT施工によって人材不足の解決が期待される背景について解説します。

 

人材不足を解決する「ICT施工」とは?




ICT施工は、建設現場にICT(情報通信技術:Information and Communication Technology)を導入することで、建設生産システム全体の生産性向上を図るものです。

生産性にはさまざまな指標があるものの、大まかには労働力や設備投資、原材料費など投入した資本の量に対する成果物の比率を示します。ここから、「建設生産システム全体の生産性向上」とは、従業員の労力、測量機器や建機、ソフトウェアなどの設備費や外注費などに対して、より多くの成果を出すことだと考えればよいでしょう。

このうち、特にICT施工において重視されているのが従業員の労力の削減です。

建設業は現在、人手不足が深刻化しているうえ就業者の高齢化が進んでおり、建設生産プロセスに必要な人材不足が深刻化しています。また、就業環境が悪いというイメージがあるため、若手人員が集まらないうえ定着しづらい状況で、熟練就業者の技術の伝承も難しくなっています。

この状況のなかで注目されているのが「ICT施工」による作業時間の削減と熟練技能要件の緩和です。これらのアプローチを行うことで、建設業における人材不足を解消しようとしているのです。

ICT施工はどう人材不足を解消するのか




ICT施工導入による人材不足の解消は、上記で述べたように「作業時間の短縮」「熟練技能要件の緩和」という2つの要素があります。

作業時間の短縮

作業時間の短縮については、たとえば以下のような工程において作業時間の短縮を行うことができると見込まれています。

【測量】
・ドローン(UAV)で撮影した画像データやレーザースキャナーで取得した点群データによる3次元測量

・3次元測量データと3次元設計データを比較し土量を自動算出

【施工】
・3次元設計データと位置情報などをICT建機に送信することで建機の自動ガイダンスを実施。丁張りが不要に

【出来形管理】
・ドローン(UAV)で撮影した画像データやレーザースキャナーで取得した点群データによる出来形計測

・3次元設計データを一元管理し、出来形計測データと比較することによる出来形管理の効率化

【検査】
・データ納品による作成書類の簡素化

このなかでも特に重視されているのが、3次元設計データを活用することによる全体の管理作業の効率化です。

平成30年に実施された平成29年のICT活用工事実施受注者に対する国土交通省のアンケート調査の結果でも、特に満足度が高い項目として「ICT建機の稼働履歴データを用いた工事の進捗把握の効率化」が挙げられています。

熟練技能要件の緩和

ICT施工では、これまで熟練の職人でなければ実施できなかった施工についても、建機の運転さえできれば実施できるようになります。

送信された位置情報と3次元設計データなどに基づいて油圧などを自動で管理する「マシンコントロール」付きのICT建機を活用すれば、レバーを一定方向に動かすだけで施工行うことができます。

ICT建機の導入で熟練の技術が必要な現場を減らしていけば、人材不足の場合でも数多くの現場を施工することが可能です。

また、技術を習得するまでの長い下積みの時間を短縮することで、若手のモチベーションを維持し、人材の定着率を上げる効果も期待されています。

ICT施工の導入に不可欠となる人材も




一方で、本来人材不足解消の鍵となるはずのICT施工の導入において、人材不足が顕在化している分野もあります。

それは、測量に必要なドローンやレーザースキャナーなどの機器を使いこなすことのできる人材や、2次元の設計図を元に3次元設計データを作成し、その後施工や出来形管理、検査のための納品データを作成・管理できる人材です。

平成29年に実施された国土交通省のアンケート調査によると、ICT活用工事実施受注者のうち、自社で3次元測量を実施した割合は7%、自社で点群データの処理などを実施した割合は14%、自社で3次元設計データの作成を実施した割合は14%、自社で出来形計測の外業をドローン(UAV)などで行う割合は17%、その内業を自社で行う割合は20%に留まりました。

現在、これらの多くは測量会社、レンタル会社、コンサルティング会社などに外注されていますが、ICT施工への投資を早く回収するためには、内製化が欠かせません。

また、作業時間の短縮効果などを自社で効果的に享受するためには、社外に発注して工程を増やしていては効率化は進みません。

ICT関連の機材を使いこなし、得たデータを処理することができる人材の育成はICT施工導入を検討する企業にとって大きな課題となっているといえます。

ICT施工に対応できる人材の不足は早期に解決を




大きな課題であるとはいえ、ICT施工に対応できる人材の不足はそのまま積み残してよいわけではありません。

国は建設業における人材不足と生産性の低さを大きな問題と認識しており、2025年までに建現場の生産性を2025年までに20%向上することが2016年の「未来投資会議」において表明されました。

国土交通省はICT施工とほぼ同義である「ICTの全面的な活用(ICT土工等)」などを通じて、建設生産システムの生産性を向上し、魅力ある建設現場をつくる取り組みである「i-Construction」を立ち上げ、ICT施工の普及を力強く推進しています。

従来の制度ではコストに見合った形での導入が難しいICT施工を円滑に普及させるため、これまでに積算基準の改訂やトラブル事例の収集や運用の柔軟化、講習の実施、補助金を活用したICT関連機材導入の仕組みづくりなどが実施されてきました。

現在、ICT施工の導入を検討する企業にとっては、補助やサポート体制が非常に充実しており、リスクが少ない形で導入を検討できる状況となってきています。

裏を返せば、この取り組みにより多くの企業がICT施工の導入に踏み出すため、導入に後ろ向きの企業は今後技術の進歩の恩恵を享受できなくなってしまいます。結果として、生産性の面でも、人材獲得の面でも競争力を失ってしまうことにもなりかねません。

国が「2025年までに20%の生産性向上」という具体的な数値目標をもって普及を推し進めている以上は、今後短期間でICT施工は急速に一般化するでしょう。

この変化の時期を乗り越えるためには、まずは行政や民間企業主催の講習に従業員を派遣し基礎的な知識を身に着けるとともに、講習やレンタル会社など関連企業との情報交換により最新の情報を得ることが必要です。

人手不足のなか、従業員を派遣することは難しい状況かもしれませんが、まずは一歩踏み出してみましょう。ICT施工についての情報に長けた担当者がいれば、より具体的に自社への導入について検討を進めることができるはずです。
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