2020 06.04
ICT施工の基礎知識

導入する前に知っておくべきICT施工の問題点とは?

建設業界において話題の「ICT施工」。官民を挙げての導入促進が盛んですが、導入に際しての問題点はないのでしょうか。
本記事では、ICT施工導入の問題点として話題になることが多い「コスト」や「扱いの難しさ」などを中心に、これらのポイントが導入の障害になり得るのかについて検証します。

「ICT施工」の問題点とは?




建設現場にICT技術を導入することで生産性の向上をはかる「ICT施工」。

ドローンやレーザースキャナーを活用した3次元測量や、情報通信技術を活用したマシンガイダンスやマシンコントロールを行うICT建機、3次元設計データを活用した工程管理と施工データの納品・検査などにより、建設現場の作業を短時間化し、施工精度を向上するなど、建設プロセス全体の生産性を改善する技術として注目を集めています。

しかし一方で、導入については現場から不安の声があがることが多いようです。

導入に際しての課題についてはさまざまな意見がありますが、大きくこの2つに分類されます。

  • ICT施工の設備を扱えるか不安または扱える人材がいない

  • ICT施工の設備を導入して利益が得られるのか


以下では上記2点について詳しく解説していきます。

ICT施工の設備の扱いは難しいのか


ICT施工に関連する設備として代表的なものは以下のとおりです。

  • UAV(ドローン)

  • レーザースキャナー

  • ICT施工対応ソフトウェア

  • ICT建機


これらのうち、多くの企業が操作について課題を感じやすいのが、測量後の点群処理や3次元設計データの作成など、ソフトウェアの扱いに関する事項です。

実際に、平成29年に実施された国土交通省のアンケート調査によると、3次元測量を自社で実施していた企業は7%、3次元設計データ作成を自社で実施していた企業は14%、ICT施工に関する出来形計測を自社で行う企業は20%に留まりました。

外注先はレンタル会社が大半で、一部はコンサルティング会社や測量会社に依頼しているという結果も回答されています。

ここから平成28年度時点で既にICT施工へ参入した先進的な企業においても、測量・設計データの取り扱いについては内製化に課題を感じていたことがわかります。

新しいソフトウェアの扱いは確かに社内での教育が重荷になります。また、教育する人材も不足しているため、なかなか内製化できないという事情もあるでしょう。

しかし、ICT施工において効率化や全体のコストダウンにつなげるためには、徐々にでも内製化を進めることが欠かせないのです。

ICT施工を外注すると効果が得にくい?




国土交通省が上記のアンケート結果をもとにICT施工のコスト構造を分析したところ、「施工規模が小さくなるほど、測量関係(3次元起工測量、3次元出来形管理等)の外注費用に見合う効果が得られにくくなっている」という傾向がみられました。

これらの点から、受注する案件の規模が小さい場合は、ICT施工による時間短縮の効果は得られるものの、測量や出来形管理にかかるコストついては内製化しなければ利益の確保が得にくくなっていることがわかります。

また、外注をしてしまえば、起工測量や出来形管理の短時間化や省力化の効果を自社で十分に得ることができません。

現在、地方整備局などの行政機関をはじめ、測量機器販売会社、ソフトウェア会社、教習所など民間企業において盛んに測量や出来形管理、ソフトウェアによる進捗管理方法についての講習が実施されています。

ICT施工の導入を検討する場合は、初期は一部を外注するとしても、徐々に内製化をできるように社内体制を整えるようにしましょう。社員を講習に派遣するなどして、自社に徐々にノウハウを蓄積していくことが必要です。

高価なICT建機を導入して利益は得られるのか




ICT施工の実施に際して、多くの事業者が悩ましく感じるのは「高価なICT建機を導入して利益が得られるのか」という点ではないでしょうか。

この点については、国土交通省の実施したアンケートや調査でも「他工種を待つ必要がある(ICT建機を長期拘束し、コスト増になる可能性がある)」「ICT建機のレンタル料金が高いため、施工規模により導入する現場が限られる」などの声が寄せられています。

参照:「ICT施工の効果検証と採算性に関する考察」(徳島河川国道事務所 ) (https://www.skr.mlit.go.jp/kikaku/kenkyu/h29/ronbun/I-37.pdf

施工案件によっては、ICT建機で効率化が図れない施工工程や国の発注するICT活用工事の積算基準に該当しない工程もまだ多くあります。

また、現場によっては土砂搬入・搬出用のダンプの調達や走行に限りがあるため、ICT建機で施工を効率化したとしても工期の短縮につながらないなど、ICT施工関連機材以外の要因で効率化が妨げられる場合もあります。

参照:「ICT施工の効果検証と採算性に関する考察」(徳島河川国道事務所 ) (https://www.skr.mlit.go.jp/kikaku/kenkyu/h29/ronbun/I-37.pdf

これらの意見や調査結果を受け、国土交通省では積算基準の見直しをはじめとする運用改善を実施しています。

平成28年度からは積算基準の変更により、ICT建機のリース料のうち従来建機からの増加分が認められるようになりました。また、ICT建機の初期導入経費についても同年に積算基準に追加されています。

また、国土交通省の資料ではリース料金によるコストが重くなりやすい3次元データ対応のICT建機については、場合に応じて2次元データ対応のICT建機も同時に使い分けることでコストを低減することが提案されています。

ICT施工は問題点やデメリットばかりではない




ここまでICT施工について「問題点」「デメリット」として挙げられやすいポイントについて述べてきましたが、ICT施工にはメリットが多くあります。

ICT施工は3次元測量を行い、作成した3次元設計データとともに一元管理することで、進捗管理や検査、書類提出などの作業を大幅に省力化することを目的に推進されています。

また、3次元の測量・設計データや衛星位置情報を活用することでマシンガイダンス搭載のICT建機を使えば、これまで手間と人手がかかっていた丁張りが不要になります。

また、自動油圧制御などマシンコントロール機能を搭載したICT建設機械を使えば、これまで熟練技能が必要だった操作についても自動で行うことが可能になります。

新しい技術の導入には、費用や教育コストの負担が問題になりがちですが、この点から目を背けて導入を避けていれば、既に導入を果たした企業と生産性の面で大きな差が開いてしまいます。

また、導入したとしても外注に頼ってばかりでは社内にノウハウが蓄積されず、コストの低減を果たすことができません。

ICT施工の課題を解決できるか否かは、「事業者が自ら生産性を向上させる仕組みを作り出すことができるか」にかかっています。

将来、日本の建設業においては現場の人手不足がより一層深刻化することが見込まれています。この状況下で持続可能な事業を営むには、ICT施工の導入によるハード面での効率化だけでなく、事業者自身の運営スタイルの効率化というソフト面での改革が必要なのです。
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